02
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とても楽しくて、幸せな日常の夢を見ていた。
休日の、部活が終わった午後。みんなで誰かの家に集りてんやわんやと
4人対戦のテレビゲームを敗者交代で楽しむ。
夕飯時になり、今日は高崎市の食べ放題バイキングのお店で
夕食しようと誰かが提案し、自転車を駆る。
約30分ほどかけて中学生にしては豪華な夕食ありつき、那波町に戻り、また明日。
部活が半ドンの日の、よるある話だが、なぜかとても楽しくて、幸せだと感じた夢だった。
そんな夢の中から現実へ戻ってきた原因は、バスの中で聞いた甲高い靴の音。
そして、やたらと眩しい白熱灯が原因だ。しかし、なぜこんな部屋――教室?
重いまぶたを開き、その時初めてここが学校の教室のような場所だとわかった。
俺がいる位置は授業を受けるときと全く変わらない。
窓際の一番後ろだ。そしてこの部屋――教室は自分達の通う北中とは若干違うが、
教卓、その後ろの黒板。その右上にある丸い形をしたアナログ時計。
10時35分。サービスエリアを出てから、あまり時間が経っていない。
それとも、12時間以上寝ていたのだろうか?
視線を下に戻すとやや乱雑に並べられた机と椅子。
その椅子にはクラスメイト達が机に伏せていたり、椅子にもたれ掛かりながら寝ているようだ。
そして首を左に傾ければ大きな窓。しかし窓には、何やら黒い板が貼り付けられていた。
手で黒い板の触感を確かめる。冷たい。黒い色をした鉄板だった。
視線を黒板に向けようとしたその時、この教室の、黒板側の扉が開かれた。
手には分厚いファイルを持ち、扉を閉めずにそのまま教卓の前に進み、立った。
意識を失う直前のバスの中で姿が確認できなかった、担任の尾田和也先生だ。
その尾田先生は、俺の方へ視線を向け、少し驚いたような顔をしたが、
特に気にする様子もなく、教卓の上でファイルを広げ、目を通し始めた。
俺以外の生徒は、誰一人として起きてない。
仕方が無いので隣の席の八島耕太の体を揺すり、起こした。
「んあ……ああ、おはよう。洋介」
辺りを見渡し、首を俺の方へ向けた。
よほど、同じ体勢で寝続けていたのだろう。
腕に押し付けられていた右頬が少し赤くなっている。
こいつもずいぶんと長いこと寝ていたもんだ。
そんな事を思いながら、気が付いた。
先ほどまで、学生服の襟で気づかなかったのだが、耕太の首には銀色の首輪が巻かれていた。
「あれ、お前そんな首輪つけてたっけ? 全然似合ってねーよ」
耕太が俺の首元を見て、言った。
お前、何言ってるだよ。それより、お前の首輪の方がよっぽど似合ってねーよ。
と口を開く前に、自分の首元を触ってみた。冷たい、首輪が巻かれているようだ。
俺達以外にも首輪をしているのか確認すべく、前の席の渡瀬亜紀さんの首元を首元をのぞく。
やはり、彼女にも首輪がまかれているようだ。
耕太も前の席の村井貴夫(男子19番)の首元に、
やはり首輪が巻かれていることを確認していた。
突然意識を失った修学旅行中のバスの中。
目を覚ましたかと思えば、バスの中ではなく見知らぬ教室。
その教室で寝ていた俺、耕太。寝ている慣れ親しんだクラスメイト。
バスの中で消息を絶っていた尾田先生。
俺や耕太、みんなに巻かれている首輪。
この気味の悪い状況に、胸騒ぎを隠せずにはいられなかった。
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