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先生はそれだけ言って、クラス全体を見渡した。つられて俺も見渡した。
「殺し合いをしてもらう」それだけの説明では足りないと言わんばかりの
表情をしているやつや、その言葉で全てを理解したのか、青ざめているやつ。
まだ夢を観続けているようなやつ。みんなそれぞれ、違った表情をしていた。
そんなクラスの表情を一つ一つ確認し、先生は続ける。
「皆さんは、今年のプログラム対象クラスに選ばれました」
プログラム。この国で生まれ、生活していく為には絶対に避けては通れないもの。
避けて通れないと言うが、それは全国の中学三年生に、機会が訪れる可能性があるって意味だ。
小学校で受けた社会の授業では、こんなように習った。
――プログラムと呼ばれる専守防衛陸軍の防衛上の必要から行う戦闘シミュレーションが
あります。これには毎年全国の中学三年生のうちの50クラスが選ばれ、
その戦闘シミュレーションに参加する事となっています。
国の偉い政治家の人達が参加クラスを選ぶので、参加が決定したら拒否する事はできません。
諸々諸々。
その授業の後に、プログラムの事はすっかり忘れていたのだが、
テレビでニュースをたまにでも観るこの年頃になると嫌でもその言葉を思い出していた。
しかしそれはどこか遠い世界の話であり、きっと自分達には関係の無い事だろうと信じていた。
なにせ、那波町の中学三年生がプログラムに選ばれたと言う事は、
生まれてこの方聞いた事がなかったし、少年野球チームの先輩達が、
県の野球強豪校へ進学したと言う事も多々聞いていた。
ニュースで流れているプログラムの話は、きっとテレビのやらせなのだろう。
兵庫県に神戸市と言うところがあるのは知っているが、
兵庫県神戸市立第二中学校など聞いた事もない。
ニュースで流れているのはきっと架空の中学校で、実在するのだとしても、
俺には全く関係のない中学校。
俺が中学三年生になったってプログラムに選ばれることなどない。
などと、根拠の無い無駄な自信を持ちながら俺は中学三年生に進級して、
修学旅行へ参加していた。けれど、そんな考え思惑も虚しく散った。
今実際に、担任の尾田先生から宣告された。"プログラムに選ばれました。"と。
「それじゃ今回のプログラムについて、説明します。一度きりしか言わないから、
よく聞いておけよ」
先生が言うプログラムの説明は、こんな感じだ。
基本的に反則行為は存在しない。どんな手を使ってでも生き残ればよい。
全員に武器(ランダムで選ばれる)、食料、会場地図、コンパス、時計、
懐中電灯が支給される。参加者は生死確認及び位置確認の為の電波発信機、
爆弾を内蔵した首輪の装着が義務付けられる。制限時間は無制限。
ただし、24時間内に死者が出なかった場合は、残っている生徒全員の首輪を爆破する。
その場合、優勝者は無し。ちなみに6時間毎に禁止エリアを授け、その場に残っていた、
又は進入した生徒の首輪を爆発させる。
「質問はありますか?」
尾田先生が説明を終え、言った。
「今じゃなきゃ聞けない事あるだろうし、プログラムが始まったら質問は受付れれなくなるぞ。
些細なことでもあれば、今の内にどうぞ」
何を質問したらいいのか。正直なところ、全部を聞きたい。
なぜ、俺たちがプログラムに選ばれたのか。
先生は俺たちがプログラムに選ばれるのを知っていたのか。
俺たちの修学旅行は、最初からプログラム行きだったのか。
プログラムが中止になり、みんなでまたあの教室に戻れないのか。
頭の中で疑問符を並べていた俺を現実に呼び戻したのは、目の前の女子の声だった。
「ここは、どこですか?」
クラス副会長の渡瀬さんが、弱弱しく挙手をしながら発言した。
それに悠々と「皆さんが知っている那波町です。
ここの教室は県立那波高校の教室ですよ」と尾田先生が答える。
「俺たちの家族や、町の人はどうしたんだ!?」
先生を睨みつけて、隣の耕太が声をあげる。
「目上の人には敬語を使うものですが……まぁ、いいでしょう。
町の人達は快くプログラムの事を理解してくれて、近場の親戚の家や、
国の仮設住宅に移りました」
修学旅行を出発してから、今がどれくらい経ったのかはわからない。
だが、この町の住民、2万人近い人達をまとめて移動させたことに驚いた。
快くではなく、きっと軍の事だ。背中に銃を押し付けて、移動させたに決まっている。
「君たちのご両親や家族の方も同じです。親戚のところや、仮設住宅に移られました。
ただ――」一呼吸置いて、続けた。
「君たちがプログラムに参加する事に反対した親御さんもいらっしゃいましたので、
その親御さんには申し訳ないのですが、強引に黙っていただきましたよ」
「強引にって、どう言うことだ?」
再び耕太が声をあげる。
「あまり良い方法ではないのですが、死に至らしめた。と、言う事です」
誰も彼も発言できないでいる。誰がクラスメイトの親が殺されたなど聞けるだろうか。
もしかしたら自分の親の可能性だってあるというのに。
いや、家族の安否は心配なれど、『自分の親が殺された』そんなのは誰もが聞きたくないのだ。
「他にはありますか? はい、三崎くん」
この野郎。「ではこの問題を……(ここで三崎義一が挙手)はい、三崎くん。お願いします」
みたく、あたかも授業と同じ様に言い放ちやがった!!
自分達の手で誰かを殺して、それの報告を終えた後だというのに! ……義一?
「今日は何月何日ですか? それと今は――10時45分と時計が指してますが、
午前と午後、どちらですか?」
今度は三崎義一が質問した。先ほどの発言を聞いて、心は痛まなかったのだろうか。
自分の親が殺されたのかもしれないってのに、なぜそんな事を聞けるんだ。
確かに、今がいつで、午前か午後かは知りたかったけれど……。
「今は5月24日です。学校を出発して、丸一日と12時間が経っていますね。
つまり今は午後10時45分。22時45分です」
二度も時間を言われなくても理解できる頭はある。馬鹿にするな。
「さて……もう45分ですか。それでは、最後の説明に移ります」
先生が黒板に地図を書き出した。
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