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先生が図に示した説明だが、要約しよう。
ここは俺が生まれ育った那波町だが、移動できる範囲は、
北は国道354号線、南は烏川、東は利根川、西は関越自動車道までらしい。
それ以上進めば近視エリア進入となり、この首輪が爆発する。
言ってしまえば俺達北中生の学区内だけなのだ。
それ以上進む事はできない。そして小さな町だが、
多数ある禁止エリア以外の民家や施設の侵入は許されると言っていた。
だが、ここ県立那波高校から半径200メートルは全員が出発した20分後に
禁止エリアとなるらしい。那波高校は国道354号線より北にあるので、
どう考えても進入できないのだが、念の為と言うやつだろう。
そして禁止エリアの説明。25日から6時、12時、18時、24時と毎日6時間毎に
町内に設置したスピーカーで発表、その時に6時間以内に死亡した生徒の発表もするらしい。
ちなみに、自分の手荷物は持ち込み可とも。先生の説明は、こんなところだ。
町の学校や工場等の施設への侵入について誰かが質問していたが、
問題ないと先生は言っていた。それらの施設が破壊され、町の人達の生活はどうなるのか、
と続けて質問していたが、先生は「君たちが気にする必要は無い。精一杯戦えばいい」
と返していた。
「説明は以上です。まずは出席番号男子1番、赤尾幸彦くん」
先生に名指しされ、赤尾幸彦(男子1番)がビクっと背筋が伸びた。明らかに動揺している。
「名前を呼ばれたら起立! そして先生の横に来なさい」
その声で赤尾が立ち上がり、先生が指さした場所――デイパックが詰まれた台車の
前に自分のバッグを手に取り歩み出た。
「この中に先ほど説明した武器や食料等が入っています。
この教室を出て右に曲がりなさい。正面の扉を出て、プログラム開始です」
兵士の一人が赤尾にデイパックを投げつけ、赤尾がそれを受け取るとクラスを見渡し、
苦虫を潰した顔で走り去って行った。
赤尾は、何を考えていたのだろうか。
普段は八島と二人でクラスを盛り上げるムードメイカーであり、
やや強面であるが笑顔を絶やさない男だ。
その外見とそぐわず、争い事を嫌う心優しい男だ。
漢と書いて”おとこ”と呼ぶほうが似合っている。
そんな赤尾が、このプログラムに積極的に参加するとは思えない。
俺の知る限り、人を自分の手で痛みつけることを嫌っていたし、
たとえ相手が誰であれ、人を殺めるようなことはしないだろう。
だがそれは、俺の中の赤尾像であり、実物は違うのかもしれない。
気が付いた。
俺はこのクラスの人間の何を知っているのかと。
例えば、付き合いの長い三崎義一の事は、お互いの家族や兄弟とも仲がいいし、
性格も知り尽くしているつもりだ。だが、それは義一の全てなのだろうか。
隣の席に座っている八島耕太。友達付き合いを始めて、1年とちょっと。
先の赤尾と二人でクラスを盛り上げるムードメイカー。部活に所属していなく、専ら勉学に励む男。
彼女居ない暦イコール年齢(これは俺も一緒だ)。
俺と同じ野球部のメンツとも仲がいい。耕太とはクラスで一番の中を自認する俺すら、
それだけしか知らない。
そうなると、全くと言っても差し支えない程交流の無い女子の性格など、
授業中や学校行事で知ったほんの一部しか把握していないし、
把握していると俺が思っているだけなのかもしれない。
そして尾田先生の例がある。
温厚で、滅多に怒ることもなく、いつも優しい声で話しかけてくれていた尾田先生。
そんな尾田先生が、その姿でいるのが当たり前だと思っていた。
それが今じゃこの声、形相。
これが尾田先生の本来の顔なのか、仮面をつけた顔なのか。
それは俺にはわからない。何せ、知らないのだから。
知ろうとも思わなかったのだから。尾田先生と言う人物の本当の姿を。
このクラスの人間を、信頼するのがとても怖くなった。
俺は、このプログラムで死ぬ事になるのか!?
「一人が出発したら2分間のインターバルを置きます。
そうした後、次の人が出発。そして2分間のインターバル。
出発。それの繰り返しです。次は雨田さんですね。心の準備をお願いしますよ」
俺は改めてやっと、非常に恐ろしい状況に置かれている自分の身を知った。
だが、信じたい。今年度2年2組から進級し、3年2組となったクラスメイトを。
――仲間たちを。
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