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萩原良典とは、同じ小学校、同じクラスだった。
小学生のときから、やたら勉強の出来るやつで小学校のテストは100点満点が当たり前、
中学の中間期末実力試験も常に上位に入っているようなやつだった。
生活態度もいたって良し。先生に呼び出されることなんて全くなかった。
そんなわけで、去年10月の生徒会選挙ではクラスで推薦される形となり、
投票を経て、第何期目かは知らないが、北中生徒会書記となっていた。
まぁとにかく、いいやつだったのだ。父親がどこかの社長をやっていて、
家もお金持ちだというのに見栄を張ることもなく
(萩原は言っていた。俺が凄いんじゃない。とーちゃんが少しだけ偉くなっただけだ。
俺には関係ない)、一緒に限度を超えない馬鹿をできたクラスメイト、
チームメイトだった。
萩原と高丸安紀が死んで、1時間以上が経過していた。
二人の血の臭いには慣れることなく、順々と教室から出て行くクラスメイトを眺め、
ついさっき出席番号で俺の前、八島耕太が出発したところだ。
この教室に残っている生徒は、俺一人。
「先生、質問していいですか?」
耕太の足音が聞こえなくなってから、挙手した。
「なんですか結城くん」
「俺の家の事、教えてください。家には祖父母、弟が住んでますが、無事ですか?」
今になってやっと聴けた。なぜだか、クラスメイトの前では聞きたくなかったのだ。
両親は、もう生きていない。その事を知らない級友たちに、
知られたくなかったという心理なのだろうか。
「結城くんの家ですか。ええとですね――」
先生はこの教室に入った時に眺めていたファイルに目を通し始めた。
「結城くんの家族は――はい、お爺様、お婆様、それと弟も生きています。
少なくとも、プログラム参加の報告をした時は反抗する事なく、
契約書にサインしていますね」
一つ、胸をなで下ろした。俺の家族は生きている。よかった。
「それでは、結城くん出発してください」
先生に呼ばれ、足元にある荷物を手に取り、前へと進む。
ディパックを受け取り、萩原の横で腰を落とした。
「何をしているのですか?」
先生は尋ねてきたが、無視をした。そして天井を見上げている萩原の目を閉じて、
俺は自分の顔の前で手を組んだ。萩原の両手を胸の上で組ませることを忘れずに。
「いい心構えです。今の気持ちを忘れてはいけませんよ」
今の気持ち。先生や、こんな事を平然とやってのける大東亜共和国に対する怒り、
憤り、恨み。それらを忘れずに、プログラムに参加しろって事か。
馬鹿馬鹿しい。俺はクラスメイトを信じて、きっと、誰に無理と言われようとも、
最後の最後まで足掻いて、みんなでこんな事から脱出し、生き続けてやる。
ああ、先生の言った事は忘れない、いつかきっと、絶対に復讐してやるさ。
たとえ人殺しと言われようとも、友人の命を奪った人間は許さない。絶対にだ。
指示された通りに廊下を進み、外へ出た。
学校の灯り以外に人口の光がないおかげか、三日月が、いつも以上に綺麗な夜だった。
――残り37人
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