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「洋介こっちだ!」
 県立那波高等学校の正門を出て、俺の名前を呼ぶ声がした。

 正門の道路を挟んで正面にある個人商店の自動販売機の横に立っている人物が発した声だ。 月明かりだけでは顔が見えず、足を踏み出して声の主へと近寄る。

「こっちだ、行くぞ」
 顔を確認しきらぬまま、声の主は南へと走りだす。
 しかしあの声、そして坊主頭。それだけで人物は確認できたと言っても過言ではないだろう。
 八島耕太(男子20番)だ。

 耕太の後を追い、走り出す。100メートル程進み、国道354号線を越え、 更に南へ進み、町の運動場へとたどり着いた。
 休日には親子連れ、スポーツチームの試合などで賑わっている公園だか、 今は勿論人影は一切なく、普段ならば夜間でも点灯中の街灯も消えている。 誰かが潜んでいなければ、完全に無人だ。
 その公園の鍵のかかっているフェンス型の門(名称がわからないんだ!)を乗り越え、 駐車場を抜け、管理室の前まで来た。当たり前と言うか、 やっぱり、管理室の扉も閉まっていて、中に入る事はできない。 扉を壊すことは無理ではないだろうが、 物音を聞かれて殺意を持っている人間に見つかったら不味いと耕太が言うので、 管理室の裏にある木々の間で休むことにした。 俺はクラス全員を信じたかったが、とにかく耕太に押し切られ、従うことにした。 確かに、俺が敵意を持っていなくても、 殺意を持ったクラスメイトがいる可能性は否定できない。 何せ今はプログラムの最中だ。相手を疑うのが基本だと尾田先生も言っていた。 じゃあなぜ、耕太は俺と共にいるのか。 俺が殺意を持って耕太に接していた可能性もあるだろうに。

「洋介はそんな事できないやつだって思ってる。だから誘ったんだ」
 と、耕太は説明してくれた。俺も耕太がそんな事をする人間だとは思っていない。
「だろ? 信じようぜ。いくらプログラムだって言っても、 相手は見ず知らずの人間じゃない。2年間同じクラスだったクラスメイトなんだぜ、 多少喧嘩する事はあっても、誰かを殺すだなんてこと、俺はしたくない。 それに、みんなを信じたいからな」
 勿論だ。俺は信じたい。
 それにまだ、教室で聞いたような銃声はまだ耳に入ってはいないし、 誰かの悲鳴も聞いていない。まだクラスメイトで殺し合いは行われていないのだ、 きっと!

 そして耕太は自分の手荷物と支給されたディパックを地面に置き、言った。

「とりあえず、荷物の確認をしよう。武器……」 耕太は躊躇うように、一呼吸おく。 「とにかく武器だって確認しなくちゃならない。考えたくないけど、 誰かに襲われたら嫌でも戦うことになるんだろうし」



――残り37人





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