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 旧五料橋。それはかつて那波村と川を隔てて隣接している赤石市を繋ぐ要所だった。 文献に寄れば、元々は渡し舟で行き来していたものを、 今から100年ほど前に掛けられた橋だと云う。近年老朽化を理由に、 新しく建てられた橋を国道354号線と繋ぎ、旧橋は一部分だけ残し、 村の歴史財産となっていた。
 その旧五料橋の地べたに座り、月明かりに照らされている川へ小石を投げている人影があった。
 一、二、三回水面を跳ね、綺麗な音を立てて沈んだ。 月明かりが出ていると言っても、それを目視できたわけではなく、 耳で確認した。だから実際はもっと跳ねたのかもしれないし、 跳ねなかったのかもしれない。考え事をしながらやっているだけだ、 別に小石の跳ねた回数など気にはしない。

 ――考え事。

 クラスメイトを殺すことはしたくなかったが、生き残りたかった。 部活で目標に掲げている全国大会優勝 (無理ではないと思う。俺達の時代になり、新人戦、藤岡市に招かれて参加した大会、 春大会、そして何度もこなした練習試合、全て負けなしだ。) をまだ成し遂げていない。今の目標はただ、それだけだ。 そして、萩原良典を殺した、担任木島に復讐もしなくてはならない。 もちろん、仇討ちだ。ヤツを殺してやりたい。

 片岡秀太(男子3番)は那波村東端の利根川を見つめ、そう思っていた。
 誰かを疑うほど、混乱していない。もちろん正当防衛はするかもしれないが、 殺したりはしない。戦闘力を奪うだけだ。ただ、俺はどうすればいいのだろうか。 一人隠れて成り行きを見守るのか、それとも、 仲間を求めてこの生まれ育った場所を歩き回るのか。
 うじうじしていても仕方が無い、まずは俊輔たちと合流しよう。 そう思い、立ち上がった矢先の出来事だった。
 膝を曲げ、やや前かがみとなっていたところに、 背中に大きな衝撃が伝わった。そしてそのままバランスを崩し、 申し訳なさそうに付いている策から前転するように川へ投げ出された。
 利根川の急流に流され、月明かりが逆行ながらも、 自分の背中を押した人物の影を目に焼き付ける。
 その姿は、とてもふてぶてしく、輪郭も丸まるしく、それでいて、 僅かに彼の体臭、汗臭いのが鼻に残った。 言ってしまえば、デブ。 一目見てデブと言えるクラスメイトはただ一人しかいない。 あんなやつの接近を許した自分が情けない。

 とにかく、川に放りだされた以上、岸にあがらなければいけない。 木島の説明によると、那波村の北中学区外から出てしまうと、 首輪が爆発するという。川に流されていけば、 程なくして埼玉県まで流れてしまう。それはつまり死に繋がる。
 とにかくもがいてもがいてもがきまくった。 が、程なくして首元で小さな爆発音が聞こえると、それとほぼ同時に、視野が急降下し、 自分の体にはもう首から上が無いことを確認し、死を迎えた。



――残り36人





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